映画『たまこラブストーリー』

記念すべき初感想は京アニの『たまこラブストーリー』。テレビシリーズ『たまこまーけっと』の劇場続編。監督は引き続き山田尚子

今さら、と思ったけれど、面白かった。
実写的な演出が監督の持ち味らしく、かなりカメラ的なシーンもあったりしてかなり新鮮だった。教室内が早回しで流れていくところでは、動く他人と動かずに物思いにふける二人の対比がより強調されていたし、コミカルさを削らないでいたのも印象的。

あらすじはデラが帰ってからの、たまこともち蔵の恋愛を進路を絡めた日常、というものなのだけれど。
すっごい不穏。
というのも、みどりがもち蔵に好意を抱いている描写が繰り返され、しかもいつでも奪いに行ける立ち位置にいるのだ。三角関係に陥る崖っぷち、そのぎりぎりのラインの緊張感が、日常の下に常にある。福の餅を喉につまらせるエピソードの後に、みどりが大福を喉につまらせるふりをするシーンがある。これを無邪気ないたずらと見るには無理があるだろう。

たまこがもち蔵の好意を素直に受け入れる、という過程がかなり丁寧に描かれているけれど、その裏にはみどりの葛藤が強く匂わされている。
けれど、けっしてこの子は悪い子にはならない。
みどりともち蔵、二人の会話の直後に彼女は自己嫌悪していると呟く。この描写が、みどりを良い子に留めている。

両立されたみどりの良い子と良い子ではない部分がとても魅力的だ。たまこやかんな達が魅力的なのと同じくらい。

恋愛を主題にして、三角関係を描くこともできた。しかし、それではこの作品の日常の下にある感情のヒダや、登場人物それぞれの愛しさは成立しがたくなるだろう。誰も悪者にならない優しい世界が完成している。
テレビシリーズのお気楽極楽太平楽なあの日常を壊さないで、小さな描写の積み重ねがドラマを作っている。